現代におけるヴァナキュラー建築
最近、後輩が紹介してくれた抜群に面白い本がある。
パーソナルメディア社の「2000年から3000年まで 31世紀からふり返る未来の歴史」
という本である。
これは筆者が31世紀にいるという仮定の下で2000年から3000年までの1000年間の歴史をふり返るという面白すぎるコンセプトによって書かれた本だ。

21世紀末に大地震で本州が二つに割れて一年余り大地震が起こり続けて日本が崩壊するというような話もあったり、26世紀に若返りの薬を使った日本人研究者が177歳まで生きたりするのだけれども、建築の話も面白い。

21世紀末にアメリカ人研究者のレオン・ガンツの開発した工法で、ガンツのセメンテーション工法と呼ばれている。
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基本的にはガンツ工法は有機「接着剤」をこしらえる遺伝子工学処理したバクテリアの使用を含んでおり、この「接着剤」が粒子(普通は砂だが、土や粉末、スラグでもよい)を凝集させるのである。
バクテリアは普通現場でセットされ、最終的な固まりの形状を制御する為に鋳型が用いられた。バクテリアを慎重に選択し、制御することによって、できあがった構造物の性質を様々に変えることができた。煉瓦やブロックを作ることができたし、壁面や床全体を作ることも出来た。頭の良い建築家はまもなく、家全体をほぼ一つのつながった固まりとして建てる工法を考案した。
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時を経るにつれて、この主の工法の周囲の環境との適応性が高まり、大型ブルドーザーを持った一団が、あらゆる環境に入り込み、どんな材料からでもビルディングを建て始めることができるようになった。

21世紀の中頃になると、豊かな国々は「完全に統制された」住宅システムを重視するようになった。それはつまり、生きた人体に循環系があるのと同じようにガンツ工法の壁の中に生きた構造を作りつけるのである。
これによって、家庭に水を送り、汚水を処理するために用いるタンクや水槽はずっと減らすことができるようになった。
2160年以降の洗練された建物は全て「活性的」水処理システムを備えていた。これによって建物は周囲の環境水—しばしば地中深くへ「主幹」を伸ばして—を吸い上げて貯えることが出来た。これは建築における第二の革命といえるもので、遺伝子工学処理した微生物を利用して直接に構造物の供給に適用できるようにすることで、いわば有機的な生きた「設備」を含む家を造るというのではなく、全体が一つの統合された「生物のような」家をつくることであった。

23〜24世紀の生物学の進歩は月にもう一つの避けられないインパクトを与えた。嫌気性の「反ガンツ」微生物—実際には一群の微生物たち—がオーストラリアで2330年代に作り出された。それはほんのわずかな水を与えられさえすれば、月の岩石を分解して砕けやすい疑似土壌にしてしまうのだった。この疑似土壌は、「再ガンツ化」して建物を建てる材料にすることもできれば—これこそ本当に月の現地産の建物だ—肥料をまぜてガラスのドームの下で作物を育てるのに使うことも出来た。

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もちろん、これはSFの世界なのだけれども、ここには面白い示唆がある。

将来的に化石燃料は大変高価になっていく。
それは、単に石油などの埋蔵量が減るだけではなくて、現在採掘しているのは、最も採掘しやすい場所であって、将来的には採掘するために深く掘ったり、不純物の多い石油を精錬したりする必要が出てくるわけである。採掘コスト自体が高くつくようになり、化石燃料はとても貴重なものになる。
一方で、希望的観測をすれば技術は進化を続けていく。ただし、どのような勾配を描くのかは謎であるが。
更に長期的に見れば、先進国と新興国の経済格差は縮まっていくことが予想される。
(最貧国との格差は分からないけれども)

そう考えてみると、遠隔地へ、地球の裏側、ましては地球から月面まで原材料を運ぶなんて、本当に技術があれば単なるエネルギーの無駄づかいでしかない。

遠い未来を考えてみると、出来る限り近場で資源を調達する方が環境負荷だけではなく、経済的側面からも合理的になるのだ。
もちろん、その為には現場の技術が伝えられている必要があり、その辺りにも議論のポイントが更に眠っているような気がする。

こう未来を見てみると、今の建築の作られ方はどれだけ理にかなっているのだろうかという疑問が沸々とわいてくるわけだ。隣の山にあれだけ木が沢山生えているのにも関わらず、建材は北米産のパイン材や集成材、構造用合板であったりするわけだ。

ガンツ工法は建築人の範疇ではないにしても、現代の技術があって、現代の物流がある中で環境付加的・経済的にはどの辺りに環境的バランスポイントがあるのかを計算してみると、そこから随分と色々な事が言えるかもしれない。

本当に技術が進歩し、経済格差がなくなってくると、建築がヴァナキュラーになるという逆転現象はかなり面白い。しかし、昔のヴァナキュラー建築と未来のヴァナキュラー建築には決定的に埋められない溝などが出来ている(はず)。

これはまるで、デジタルが究極的に進化していくと、アナログに限りなく近づいていくが、決して同化することはないという話のようだ。

*1 パーソナルメディア社「2000年から3000年まで 31世紀からふり返る未来の歴史」
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by machine1984 | 2009-08-09 20:02 | 建築
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渡辺典文 / Norifumi Watanabe The University of Tokyo Graduate School of Engineer Architectural Department Master Course
by machine1984
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